カジノ(IR)法

IRの次はスポーツ賭博か

2022年6月7日付けの各紙のニュースに、ピエロはほとほと呆れ果てました。
経済産業省が、スポーツの試合結果やプレー内容を賭けの対象とする「スポーツベッティング(スポーツ賭博)」の解禁に向けて、素案をまとめたというものです。経済産業省はいったいいつから、ギャンブル推進省になり果てたのでしょう。スポーツ賭博を通じて放映権料や広告収入が広がり、スポーツ産業の活性化になるという判断だそうですが、スポーツ関連産業の振興ならば博打にたよらなくても、たとえば「ふるさと納税」のような振興策だってあるはず。経済発展のために「博打」を押し出すなどとは、「IR」に地方再生を掛ける品性の無い地方議員と同じレベル。

経産省はスポーツ庁とともに、7月にも有識者による「スポーツ未来開拓会議」を5年ぶりに再開して、スポーツ賭博の解禁に向けた議論を本格化させる意向なのだそうです。この会議は2016年にも、日本のスポーツ市場の規模(2015年当時で5.5兆円)を25年に15兆円まで引き上げる目標を掲げ、スポーツ賭博の実現に前のめりになっていました。

日本の刑法が賭博を禁じていることは、この「IR法」の項で何度も述べてきました。現行する公営ギャンブルの競馬や競輪、そしてサッカーくじなどはその都度業界と繋がっている偉い国会の先生方が、無理やり法整備しては「合法」という上着を着せられて運営されています。法によってもともと禁止されているものを、屋上屋を架すごとくに新たな法律を作ってギャンブル大国を推進してきましたが、またもや新たな法律が形成されて新たな博打場が生まれようとしています。

スポーツ庁の室伏広治長官は6日の記者会見で、「スポーツベッティングは我が国では具体的な設計もまだできていない不安定なものだ。スポーツ庁としては(部活動の休日指導をスポーツ団体などに委ねる)『地域移行』の経費をベッティングで賄うことは考えていない」と強調。
名古屋造形大の大橋基博特任教授(教育行政学)も「子供の部活を理由にスポーツ賭博の合法化を進めるとしたら、とんでもない」と述べ、「子供の教育や健全な発育に必要な運動であれば、国や自治体が公費をきちんと充てるべきだろう」と指摘。

こうした至極まともな意見がある一方で、賛成の手を挙げる下品な輩も多くいます。

経済産業省の審議官の言。「海外ではスポーツベッティングなど新しいサービスがプロスポーツ界の新たな収益源となっている。我々も協議会と同じ方向を向いて仕事をしたい。」(4月中旬に開かれた「スポーツエコシステム推進協議会」の設立総会)

本年の4月22日に開かれた「自民党スポーツ立国調査会」での意見。
片山さつき(全国ブロック比例代表参院議員):「日本のスポーツはすでに海外で賭けの対象となっており、国内に取り込むべきだ」
佐々木紀(石川県第二選挙区選出の衆議院議員):「スポーツの成長産業化に寄与する」
牧原秀樹(北関東比例代表選出衆院議員):「ビジネス機会の損失だ」

ここでも博打をビジネスというカタカナで言い換えて、違法行為を正当化しようとしています。実体のないのに持続化補助金を詐取した輩と、ゼロサムでしかない博打を「産業」化しようとするこのような議員と、どちらも国民生活の助けにならないことは明白です。

笑ってしまったのは日本維新の会の藤田幹事長の発言。「スポーツ賭博」についての取材に対し、何をどう考えたのか、彼の答えは、
「議論を全て否定するつもりはないが、様々な弊害を検討したうえで慎重に制度設計していく問題だ。」
日本維新の会は、所属議員がこぞって「IR」建設に大賛成。「スポーツ賭博」には「様々な弊害」が予想されて、「IR」には何の弊害もないのでしょうか?

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最も残念、というか落胆したのは、フェンシングのオリンピックメダリストである太田雄貴の発言。
3月12日付けの ABEMA TIMESに掲載されたインタビュー記事。

『日本の産業は世界と比べてデジタル化が遅れてしまったため、本来日本が取れるはずのものを、取り切れていないという状況があります。たとえばスポーツのデータもそうですし、消費者の行動などもそう。・・・世界では合法化され盛り上がっていくところが、日本ではまだまだ法の壁が立ちはだかることによって、大きな機会損失をしてしまっています。』

『日本に居住する人が海外のベッティングをすると違法賭博になってアウトですが、海外の合法国に居住する人たちが日本のスポーツを対象にすると、これは合法です。実際、日本のスポーツを対象にしたベッティングの売り上げは全部で数兆円にものぼるとも言われています。それなのに、日本に対しては税金としても1円も支払われていない。これは本来、取れるはずの税収を取れていないということ。・・・この状況を正常に戻していく、外貨を稼いでいくということに対して、検討に入っていく段階だと思っています。』

太田君、君はいつから胴元になったのかい。博打の壁など高くて高すぎることは絶対にないし、売上が数兆円になるという掛け金はほとんどが負けた金で、その煽りをうけているのはギャンブラーの家族ですよ。そんなことも知らないのか、知っていても「金」がないとフェンシングができないのか、いずれにしても正々堂々が大原則の(元)スポーツ選手の発言とは思われません。

オーストラリア心理学協会が数年前に実施した調査では、インターネットによるスポーツ賭博が加速したため、中学生のギャンブラーの著しい増加が目立ったとの報告があります。 
掲載サイト

米国でのギャンブル依存症対策サイトであるKindbridge Behavioral Healthのデータによると、

・スポーツ賭博のギャンブル依存症の発生率は、他のギャンブラーが経験するギャンブル依存症の少なくとも2倍。
・スポーツ賭博に関するある研究では、16%がギャンブル依存症の臨床基準を満たし、13%がギャンブル依存症の兆候を示している。
・スポーツ賭博の45%はオンラインで行われている。オンラインギャンブルは24時間年中無休で利用でき、利便性とプライバシーが向上し、モバイルデバイスを使用して賭ける人はギャンブル依存症の発生率が高くなる。
・スポーツ賭博はプロスポーツ選手の間で一般的となっている。最近のヨーロッパのレポートによると、プロスポーツ選手の57%が前年にスポーツベッティングを行っており、8%がギャンブル依存症を示していて、これは一般人口の約3倍。
・学生の75%がギャンブル依存症(2018年のデータによる)であり、若者は成人よりもギャンブル依存症の発生率が高くなっている。
・2004年から2018年の間に、米国ではファンタジースポーツの賭けが4倍になった。研究によると、ファンタジーゲームへの参加率が高いほど、問題のあるギャンブルの発生率が高くなる。

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片山さつきや太田雄貴が羨ましがる海外におけるスポーツ賭博の実態は、このように極めて深刻な問題を抱えているものです。そもそも、どのような「賭博」にもメリットはなく、役人や片山さつきらが強調する経済効果とはいったい誰が享受する利益なのか、賭け事の勝率のごとく全く不明です。

スポーツとスポーツ文化は世界中のどの国においても、広いコミュニティに影響を与えていることはオリンピックやFIFAカップなどを見れば明らかです。しかし、スポーツ賭博のデメリットを少しでも考慮すれば、そのスポーツの「ゲーム」の正当性に深刻な影響を与えるリスクがあることが理解できますし、自民党の賭博オタク議員が言う「ビジネス機会」を得る業界スポンサーは、利他的な活動としてではなく、人々がギャンブルをすることを奨励するために、そして彼らの製品を合法化する手段として存在しているに過ぎません。

太田雄貴くん、今からでも遅くない! 健全なアスリートの健全な精神を取り戻しなさい。

※ 投稿文中の敬称は略していることもございます。


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