3%のカジノが80%を稼ぐIRの実態

3%のカジノが80%を稼ぐIRの実態

2018-10-22

3%のカジノが80%を稼ぐIRの実態

カジノ(IR)法

石原慎太郎が自身最初の都知事選挙で「お台場カジノ構想」を唐突に打ち出したのは、平成11年(1999年)のことでした。

「競輪、競馬が良くて、なぜカジノがだめなのか。先進国の都市の中でカジノがないのは、日本の大都市だけ。」などと、石原慎太郎の発言は小泉純一郎ばりのワンフレーズアピールで、都民のみならず日本中の耳目を集めました。その背景には都が抱えていた「財政」と「臨海副都心の開発」という2つの課題がありました。当時の都財政は危機的な状況に面していましたし、鈴木俊一知事時代に計画された臨海副都心地区での「世界都市博覧会」を前知事・青島幸男が中止した影響もあって、約6割が空き地のままになっていた臨海副都心に有する賃貸用土地139ヘクタールの使いみちとして、石原慎太郎による「お台場カジノ構想」がでてきました。

爾来20年の2018年7月20日、ついに統合型リゾート施設(IR)実施法が参院本会議で可決、成立しました。当初は法案成立に慎重だった公明党はいつもの通り最終的には賛成にまわり、「公明党の主張でカジノには世界最高水準の規制がかけられました」と党HPや各議員が事あるごとに吹聴しています。

その「公明党の主張」として彼らが挙げているものの一つが、「カジノフロアは施設全体の3%以内」という規制。しかし、そもそも政府原案でのカジノエリアの面積は、

(1)1万5000平方メートル
(2)IR施設全体の3%

のいずれか小さい数値を上限とするものでした。しかし、カジノ推進派から厳しすぎるとの強い声があがり、(1)の絶対面積の規制は削除され、(2)だけが残ったのです。これが公明党の主張する「成果」であり、自民党カジノ推進派やギャンブル業界への譲歩と妥協の産物でしかないことは明らかです。しかも、この「3%以内」というものの分母が明確ではありません。この分母が「IR施設全体の敷地面積」なのか「IR施設全体の延べ床面積」なのかがはっきりしませんから、「世界最高水準の規制」の水準値が不明のまま「3%」という数値だけが独り歩きしています。

すでにご承知のように、IRはIntegrated Resortの頭文字の略で、観光施設であり、レクレーション施設、展示施設、会議場施設、宿泊施設などを包括する統合型リゾートであるとされ、IR法の冒頭にも「特定複合観光施設」と書かれています。カジノ推進派らはこの法案が目指すのはあくまで観光施設であるとしていて、ギャンブルの敷地面積は「3%」以内と強調していますが、それは観光施設として本来ならば相応しくない賭博場・カジノの存在を皮相的に薄めることを意図していることは明白です。

カジノ推進派議員や御用学者たちがこぞってIRの好例としてあげているのが、LAS VEGAS SANDS CORP.が経営する「マリーナ・ベイ・サンズ」。東南アジアを代表するカジノとして、頻繁にその遠影が映し出されるあの地上200Mのインフィニテイプールで有名です。石井啓一国土交通大臣(公明党)も出席して平成29年4月6日に開催された「第一回 特定複合観光施設区域整備推進会議」でも、「マリーナ・ベイ・サンズ」は参考資料として配られた諸外国のIRとして筆頭に引用されました。この配布資料には、施設の概要が以下のように書かれています。

敷地面積:約19万㎡
延床面積:約60万㎡
施設概要
カジノ:1.5万㎡(通路等の共有部分は除く)
会議場・展示場 合計:約12万㎡
飲食ショピング施設:約7.0万㎡
博物館:1.4万㎡
ホテル:20.7万㎡

この情報によれば、「マリーナ・ベイ・サンズ」におけるカジノの専有面積は全延床面積の2.5パーセントとなります。しかし、事業サイズは施設の広さではなく、収益によって判断されることは子供でも理解できる理論です。

このことをLAS VEGAS SANDS CORP.が公開している2017年度の年次報告書で検証してみます。

「マリーナ・ベイ・サンズ」の各部門の売上高(単位:百万USドル)と専有面積比率(延床)

事業部門 売上高 面積比率 売上比率
ホテル $  358 34.5% 5.4%
モール $ 167 11.6% 11.7%
カジノ $ 2,521 2.5% 82.7%

わずか2.5パーセントの面積した占めないカジノの売上は、ホテルの7倍、モールの15倍で、IR施設全体の収益の実に82.7パーセントがカジノが稼ぎ出したものです。

このように、IR施設総体の売上の大部分がカジノに頼っていることから判ることは、IR施設はカジノの高収益があってこそ成立するものであるということです。これはカジノ推進派も理解しているところで、文部科学省の助成事業「観光資源としてのカジノ」の代表を務める佐々木一彰が書いた小学館新書「カジノミクス」にも以下のような記述があります。

『どのような規模のIRについてもいえるのは、カジノの潤沢な収益によって、通常なら採算性の低い施設をも余裕を持って運営できる』

カジノ推進派議員がIRを「特定複合観光施設」などとどれだけ言い繕っても、賭博場の高収益がなければIR施設は立ち行かないのは紛れもない事実なのです。IR施設とは、最大の稼ぎ手であるカジノを認めた経済特区を作り、言い訳程度の様々なソフト施設を呼び込むことでいかに国民の目を「賭博」から逸らすかがIRプロジェクトの成否を握るカギといってもいいでしょう。

しかも、このカジノには非常に興味深い収益システムが存在します。

2017年度の年次報告書に「マリーナ・ベイ・サンズ」のカジノ部門の収益を示す欄があります。

2017年度「マリーナ・ベイ・サンズ」カジノ部門収益区分
Non-Rolling Chip drop $ 3,746
Non-Rolling Chip win percentage 28.4%
Rolling Chip volume $ 34,994
Rolling Chip win percentage 3.52%

ここで使われている「Rolling:ローリング」という言葉は、「ローリングプログラム」と呼ばれるVIP向けの賭け金ルールのことです。最低掛け金100万円ともいわれ、このサービスを受けるには事前に専用の「ローリングチップ」を購入しなくてなりません。「ローリングプログラム」での賭けはこのチップで行われ、このチップでの換金はできない決まりですので、一旦購入した「ローリングチップ」はすべてを必ず使い切らなければいけません。賭けに勝った場合の払い戻しは通常のチップで行われ、換金はこの通常チップで行います。「ローリングプログラム」を利用するVIPには豪華なプレイルームの使用や、宿泊費の割引などさまざまな特典が付与されますが、上記の表を見るとカジノ側がいかに大金を払ってくれる客数を増やすことに腐心しているかがわかります。

Non-Rolling Chip dropとは、「ローリングプログラム」を利用しない通常の客が落とした金で、マリーナベイ・サンズの2017年度では37億ドルでした、が“Non-Rolling Chip win percentage”は28.4%となっています。これは最終的な運営者側の取り分の割合を示しています。同じように「ローリングプログラム」を利用したVIP客が落とした金“Rolling Chip volume”は349億ドルで、運営者側の取り分は3.52%です。

一般客に比べてかなり低い数値をVIPに設定し、VIPへの還元率をとても高くしています。これは、大金を使う客に気持ちよく勝ってもらい「ローリングプログラム」を大いに利用してもらおうということ。掛け金は高額になるけれども大口のお得意様には特典を与えてお得感を演出し、全体としてカジノビジネスの収益を確保しようという運営者側の思惑に他なりません。

この「ローリングプログラム」にまつわる大阪のエピソードを一つ。

大阪維新の会はIRの大阪招致を党員あげて推進しています。その大阪府議会議員が、平成28年3月に提出した「シンガポール 行政調査報告書」というのが公開されています。シンガポール訪問の目的は、

『大阪維新の会大阪府議会議員団は、世界の中で存在感を発揮する大阪の都市づくりに取り組んでおり、今後の目標を、我が国東西二極の一極を担う“副首都・大阪”の
確立という具体的なミッションとして掲げ、各方面と連携・協力しながら、その土台の構築と府政のさらなる諸改革に真正面から向き合っている。そのため、様々な課題に関しさらに高度な調査研究、情報の収集、先進事例の視察等を行う必要がある。そのような状況のもと、「世界の都市間競争に打ち勝つ基盤づくり」を重要事項のひと
つと考え、これが参考とすべく、アジアの中継都市として近年発展が著しいシンガポール共和国の先進事例や斬新な政策、さらに現地の諸情勢等について、訪問団を編成し行政調査を実施することとした。』

としていますが、要はマリーナ・ベイ・サンズを始めとするIR施設の見学旅行ですから、報告書そのものは取るに足らない内容です。しかし、捨て置け無いとろこが一つありました。

マリーナ・ベイ・サンズのCFO・財務担当上級副社長であるロバート・ハレイダが出席した質問会での一節にこうあります。
質問: カジノ収益の内、VIP が占める割合は?
応答: 一般の客と比率は同じくらいで大差はない。

前述の「ローリングチップ」の数値はLAS VEGAS SANDS CORP.が公開した年次報告書から引用したもので、インターネットにつながる環境さえあれば誰でも簡単にダウンロードできるものです。大阪維新の会議員の質問に答えたマリーナ・ベイ・サンズ・財務担当上級副社長の内容が全く間違っていることは、容易に証明できるものですが、大阪維新の会大阪府議会議員は誰ひとりとしてインターネットを利用できないようです。このような杜撰な報告書や情報をもとにして、大阪のIR構想は進んでいます。

前述の「第一回 特定複合観光施設区域整備推進会議」において、石井啓一国土交通大臣は安部総理の言葉を引用しながら次のように挨拶しました。(首相官邸HPより引用)

『魅力ある「日本型IR」の重要な点といたしまして、家族連れで楽しめるエンターテインメント施設や、国際会議場・展示場等と一体的に運営し、日本の伝統・文化・芸術を生かしたコンテンツを導入することで、国際競争力の高い滞在型観光を実現するものにしていかなければならないこと、また、シンガポールのような大規模な民間投資が行われ、大きな経済効果・雇用創出効果をもたらすものとすること。あわせて、IRを訪れる旅行客が全国各地を訪問できるようにし、全国で経済効果をもたらすものとすること』

この挨拶をピエロ風に解釈するとこうなります。

『魅力ある「日本型IR」を創出するには『家族連れで楽しめる』カジノを作りできるだけ多くの来場からできるだけ多くのお金を巻き上げ、『日本の伝統・文化・芸術を生かし』て、博打必勝の神社を敷地内に作り、カジノへ向かう通路には赤や白の提灯を吊り下げ、カードを配る女性ディーラーには和服を着せてオ・モ・テ・ナ・シを演出させて、会場にはBGMとして琴の音を流して、次世代のギャンブラーである子供たちにもカジノは楽しいと思わせることが、『国際競争力の高い滞在型観光を実現するもの』である。しかもそのような大規模カジノ、いやIR施設を全国津々浦々に作るのだ。ただし、政治家はIR法の線路は敷くが汽車を走らせるのは民間であるので、結果責任については不問にしてもらいたい。』

石井啓一国土交通大臣の真意はどこにあるのか、意見を聞いてみたいものです。

LAS VEGAS SANDS CORP.が保有する8ヶ所の全IR施設における、2017年度の事業別売上高明細は以下の通りです。IR施設のカジノ依存度の高さが再確認できます。

LAS VEGAS SANDS CORP.全IR施設 2017年度の事業別売上高
カジノ $10,058 73.3%
ホテル $1,619 11.8%
飲食店 $843 6.1%
モール $651 4.8%
会議場等 $550 4.0%
合計 $13,721  

カジノの売上が占める比率は73.3パーセントとなっていて、グループにおける不動の稼ぎ頭となっています。

ラスベガス・サンズは1988年に敬虔なユダヤ教徒でシオニストとしても有名なシェルドン・アデルソンによって設立されました。現在では約49,000人の従業員を抱える世界最王手のカジノ運営業者です。会議場や商業施設を併設するIRは、シェルドン・アデルソンによって開発されました。彼は2014年2月24日に、日本に大型投資を行う用意があると述べたほか、2018年7月20日には「特定複合観光施設区域整備法」の成立に対して歓迎する声明を発表しました。

また、ラスベガス・サンズはトランプ米大統領の大統領選挙期間での最大の援助企業としても知られ、就任式典実行委員会で副委員長を務めました。安部総理が世界で最初にトランプ氏と会談したのは2016年11月ですが、5年以上も成立しなかったIR法がその後速やかに日の目を見たのは、トランプ米大統領の強い説得があったとの噂もあります。

トランプ米政権がイスラエル建国70周年にあたる2018年5月14日、商都テルアビブに置いてきた在イスラエル米大使館を聖都エルサレムに移転したには、シェルドン・アデルソンらユダヤ教徒の強力な支援に対する返礼であり、トランプの政治的パフォーマンスでありました。一方の日本では、IR法の成立には既存のパチンコ業界が深く関わっていますから、法案成立の背景には安部総理と自民党政権による関連業界への忖度があり、彼らのパフォーマンスはやがて第二の「森友」や「加計学園」問題へ発展する可能性を孕んでいるのではないかと危惧されます。