松井くん、そこまでして賭博場を作りたいのかい?

大阪府・大阪市の行政は大阪維新の会(以下、「維新」と略)の議員らによってによって掌握されています。2022年2月の時点で、市には40人(48.2%)の府には51名(58.0%)の維新議員が在籍していますので、国政選挙でバーター取引している公明党が賛成すれば、大阪維新の会の意向は議会を取り仕切れます。
その維新・公明が積極的に推進するのが大阪IR構想です。

大阪府・大阪市IR推進局がまとめた「統合型リゾート(IR)設置により懸念されるギャンブル等依存症などに関するセミナー」で使われた冊子の16ページ目に「IRの必要性」という解説が掲載されています。

大阪・夢洲のポテンシャル?
大阪・夢洲が大阪市民の話題になったのは、2008年に開催されたオリンピックの立候補都市として日本オリンピック委員会(JOC)総会での決選投票により、横浜市を破って大阪市が決定された1997年で、海のオリンピックをテーマに夢洲は選手村として活用される予定でした。しかし、悪化していた財政状況、環境破壊などを無視してイケイケムードだけで推進した大阪市は、一回目の投票で最下位となり落選(6票)し、2008年開催地は北京に決定してしまいました。まさに、完敗の推進劇でした。

選手村が予定されていた夢洲は、過去28年間で約10,000,000トンの焼却灰を埋め立てた、ごみの洲(しま)です。必ず沈み、災害にも弱いことは素人目にも明らかです。2025年に開催予定の大阪万博の2区、IR の3区には一般ごみが持ち込まれていますし、ダイオキシン汚染が懸念される 1区は危険土壌。これのどこが、夢洲の〝ポテンシャル”なのでしょうか。

大阪湾は河川港と言われます。それは、淀川と大和川に挟まれるように正蓮寺川、安治川、尻無川、木津川の4つの川が流れこんでいるからです。しかし、これらの川沿いには大工場がいくつも並んでいます。安治川流域には「西六社」といわれる、住友電工、住友金属(現日本製鉄)、住友化学、日立造船、汽車製造(現川崎重工業)、大阪ガスがあり、木津川流域には、三井造船、藤永田造船所や名村造船、佐野安造船所などが軒を連ねて高度成長期の大阪経済を支える屋台骨でした。しかし、経済活動の活発化にともなう河川の汚染などで環境問題がクローズアップされると、大阪市は1974年から2002年にかけて443万m3にも及ぶ有機汚泥浚渫(しゅんせつ)を行いました。なかでも、1991年から2000年にかけてはPCB含有土砂を47万m3、2006年からは底質ダイオキシン類の除去を行いました。
問題なのは、こうして掘り起こした浚渫残土の処理です。これらの危険土は1987年から、夢洲2区、夢洲3区の土として埋め込まれました。

市民感覚から言えば俄かに信ずることができませんが、このような埋め立ては違法な処理ではありません。

海防法と略称される「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」(1970 年)というものがあります。この海防法によれば、どれだけ汚染された有害な浚渫土砂であっても、「土地への造成へと有効利用をはかる場合、浚渫土砂は造成のための『材料』であり、海防法第三条第六項廃棄物の定義である『人が不要とした物(油及び有害液体物質等を除く)をいう』に該当せず」とされています(脚注 1 )。
浚渫土砂は人が不要とした物ではないので廃棄物ではない。だから、汚染された浚渫残土は「海防法」に示される廃棄物処分の適用は受けない。ということです。

こんなザル法がいつまでも通用することはありませんから、当然のように改正されます。
それは、「ロンドン条約1996年議定書」の発効を受けて改正されたもので2007年から「改正海洋汚染防止法」として施行されました。ここには、浚渫土砂を海洋投入に関して次のような項目が記されています。
1. 政令で定める基準を満たす水底土砂以外の浚渫土砂の投入禁止
2. 浚渫土砂の海洋投入処分に対する環境大臣による許可制度の新設
3. 許可に基づいた海洋投入処分時での海上保安庁長官による事前確認の義務づけ
4. 排出海域汚染状況監視計画の策定、実施、報告--など

しかし、この法律が施行されたのは2007年4月1日だったので、危険土の埋め立ては実に20年に渡って合法的に行われたのです。

PCBやダイオキシンは環境ホルモンとして多くの生態系に激減や生殖能力の欠如、大量死など影響を与え続けてきました。この環境ホルモンが染み込んだ土でできた夢洲を「単なる空き地」と考えた維新・公明・自民などは、「有効利用を図るべき」との短絡的な発想から統合型リゾート(IR)を核とする国際観光拠点として夢洲を選択しました。

夢洲がこのような土地であることは一般市民のピエロでも簡単に調べられます。まして、府・市の資料に自由にアクセスできる議員先生方にとって、夢洲の浚渫土砂の実態を探ることは極めて容易でしょう。にもかからず、IR・万博です。

さらに言いましょう。
IRと万博会場用地の西端にあたる夢洲1区(産業廃棄物処分場)が過去約27年間で約1000万トンもの焼却灰で埋め立てられていることは前述しました。問題は、これにもダイオキシンやPCBなど有害化学物質が含まれていることです。2003年に施行され2010年大幅改正された「土壌汚染対策法」によれば、産業廃棄物処分場の環境基準は通常基準の約10倍まで規制が緩められています。通常の10倍にもなる環境ホルモンが体積した土地にも、雨は降ります。窪地に雨水はたまり池ができます。大阪市は、この汚染水を浄化装置によって大阪湾にではなく万博会場予定地の2区に放流しています。こうして2区に移された池の上には万博での回廊が設置されることになっています。このような土地のどこが『夢の洲』なのでしょう。

税金は一切、使いません!
大風呂敷を広げる日本総合研究所によれば、万博、IRの二つを誘致できれば、2025年に2兆6100億円の経済効果があると試算しました。これを受けて大阪府の吉村洋文は「万博、IRが来れば文字通り夢洲は『夢の島』になる」と宣い、松井一郎は「東京のお台場に負けない湾岸部にする」と意気込む始末。どうしてもここに賭博場を開設したい松井は、大阪府知事だった2016年12月22日に大阪市平野区で開催された説明会でこのように明言しました。
「ある特定の政党が流布していますが、カジノに税金は一切、使いません。これは民間が投資する話なんで、皆さんの税金がIR(カジノ)で使われることはない。はっきり言っておきます、税金は使いません」

大阪市のIR事業者公募には、MGMリゾーツ・インターナショナル(米国)とオリックス連合の1事業者のみが応募し、2021年9月に正式に選定されました。市が2019年12月に公表した募集要項には、対策費を負担することは明記されていませんでしたが、候補地周辺で実施したボーリング調査で液状化の可能性があることが判明し、国の基準を超えるヒ素やフッ素までもが検出されました。こうして提供エリアの土壌汚染が発覚すると、2021年3月に事業者を追加募集した際には、松井一郎らは募集要項に「大阪市が妥当な額を負担する」とひっそりと追加していました。もちろん、市民にそんな追記事項は知らされていません。

「税金は使いません」と宣言した時から経つこと6年。2021年10月5日の市議会で、「地盤改良や土壌汚染対策は、土地所有者である大阪市の責任としてやっていく」と松井一郎は述べ、市の特別会計「港営事業会計」から約800億円の対策費を支出する考えをらかにしました。

「一切、使いません」から一気に800億円へ跳ね上がったこの隔たりは、松井一郎や吉村洋文そしてIR議員たちの品格と真摯さの無さの市民との乖離を示す数字です。このような豹変振りを、巷では「だまし」もしくは「裏切り」、「歪曲」、「ごまかし」、「まやかし」、「トリック」、「罠」と言い、荒唐無稽で与太話しと表現します。

松井くん、吉村くん、そこまでして賭博場を作りたいのかい?

 1:海防法
「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海防法)」 第3条の6.水産庁漁港漁場整備部:「浚渫土砂の海洋投入処分に係る漁場環境影響評価ガイドライン」(2006 年) p.3.