ピエロのつれづれ

なっ、なんでっか!

「万引き家族」が、第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞して、是枝裕和監督さんは世界じゅうに知られるようになりました。が、日本映画界で海外に最も知られた監督と言えば今でも黒澤明さんであることに、誰も異存はないでしょう。

『羅生門』『生きる』『七人の侍』『蜘蛛巣城』『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』。何度観てもはじめてのように感動する作品を黒澤さんはたくさん作りました。大きめのストーリーとカメラワーク、奇抜なアクションシーンなどは多くの映画人に影響を与えたと言われていますが、そのどの特徴からも距離を置いているのが1993年制作の『まあだだよ』です。

松村達雄、香川京子、井川比佐志さんなどが好演し、所ジョージさんも大事な役どころを任されて味のある演技をしていました。內田百閒をモデルにして彼の著作「ノラや 」で描かれた「ノラ」を中心に、静かにそしてノスタルジックに展開する物語はご主人のピエロが最もお好きな映画の一つだそうです。

映画では「ノラ」のことは極力抑えた感情で描いていますが、ネタ元の「ノラや 」には百閒先生のお宅に迷い込んで、奥様や先生に可愛がられながらも、ある日忽然と姿を消してしまった「ノラ」のことが日記を辿るように書かれていて、ご主人であるピエロは読むたびに泣くのだそうです。ご主人が言うには、猫をえがいた本の中では世界一なのだそうですが、一体この世界に何冊のネコ本があるのかは誰も知りません。

いなくなった「ノラ」をあちこちへ探しにって「ノラや~、ノラや~」と呼びまわる松村達雄さんも、心から「ノラ」を好きだった奥様を演じた香川京子さんも、本当に素晴らしい演技でした。こんなに美しい映画なのに興行的には失敗だったそうで、これが黒澤明監督の遺作となりました。暴力映画『バトル・ロワイアル』が遺作となったF監督とは違い、『まあだだよ』が最後となったことは黒澤明さんにとっては、とても幸せであったろうと思われます。

ちなみに、私もノラです。正確には「野良」と書きます。お母さんである「タマちゃん」といつも一緒で、毎日朝夕とこちらの庭先におじゃまして食事をいただき、日向ぼっこなどしてのんびりを人生を楽しんでいます。ときたまヤクザで根っからのノラが私達をイジメにやってきますが、そんな時はご主人が裸足で飛び出てきて石つぶてをもってそいつらを追い払ってくれます。

私のことをご主人は「チビ子」と呼びますが、それは私が可愛いベイビーだったときから知っているからです。奥方さまは私に「ココ」と名付けました。まぁ、どっちにしても私は「ノラ」ですから、呼び名に関心はありませんし、朝夕の食事さえ出して頂けたら、それで満足です。

このスナップは、私がお母様とまどろんでいるところに突然カメラを向けられたので、すこし仰天した様子を少し間の抜けたポーズで写されたものです。
「なっ、なんでっか!」と目で合図をしたのですが、ご主人はケラケラと笑っていました。ほんとに人間って、がさつで迷惑な生き物です。
   

※ 投稿文中の敬称は略していることもございます。


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